映画『ザ・ウォーク』に見る職分の追求の美学


ジョゼフ・ゴードン=レビット主演の『ザ・ウォーク』をバンコクにて視聴したが、当初は日本の俳優のアラタに、主人公のフィリップ・プティが似ているという単純な感想を持っていた。

しかしながら、序盤から非常にテンポよく話が進んでいて、音とリズム感という部分については、最初から最後まで一貫してこだわって作られている映画だという印象を受けた。

これが監督のロバート・ゼメキスの手腕なのか、あるいはそれ以外のスタッフにするものなのかは分からないが、文章を書くときにも応用できそうなぐらいの、小気味よいリズム感で話がどんどん進んでいくため、集中力を切らさずに自然に引き込まれて観ることができる。

主人公のフィリップ・プティは、生まれ育った街を出てからパリへ行き、ノートルダム大聖堂で綱渡りをした後、ニューヨークに渡ってワールドトレードセンターが完成する前に、ツインタワーの間を綱渡りをしたという伝説を持っている実在の大道芸人。

この『ザ・ウォーク』というのは、その出来事を元にした伝記映画という位置づけになる。

『ザ・ウォーク』の中で描かれているフィリップ・プティは、決して大道芸人として或いは綱渡りの専門家として他を圧倒するような技術があったわけでもなければ、実績を持っているわけでもなく、むしろノートルダム大聖堂やニューヨークのワールドトレードセンターで綱渡りをしたという実績によって伝説的な人物に成り上がったという印象が強い。

実際、綱渡りの技術に関しては、パパルディと呼ばれるサーカス団の団長の下に弟子入りをしている。

その上で、フィリップ・プティの名を上げたのは、綱渡りの技術はもちろんのことだが、それ以上に他人がやらないことに対するさらに言えば注目を集めるようなことに対する計画力や、実行力、段取りの良さや、人を巻き込んでそれを実現させていくような人間関係作りといった力が見られる。

これは別に綱渡りに限ったことではなく、いわゆる士業の世界であったりとか、それ以外の世界であっても、プロモーションが上手いために実力は二流でも、一流であるかのように見える人もたくさんいるし、たまたま腕のいいプロモーターに紹介されて、実力が伴わないのに知名度が上がってしまう人というのもいる。



フィリップ・プティの場合は、人々の注目を集めることによってビジネスを成立させようとしたのではなく、ただ純粋にワールドトレードセンターやノートルダム大聖堂を眺めていて、その間を歩いて渡りたいという純粋な思いからスタートしているので嫌みがないが、ビジネスのために計算ずくで大きく見せている人を見かけると微妙な気持ちになる。

それはそうと、ノートルダム大聖堂にワールドトレードセンターにしろ、当然綱渡りの許可をとっているわけではなく、むしろ不法侵入なので、どちらも成功した後で警察に捕まっている。

さすがに、歴史のある教会で綱渡りをするのは正式に申し込んでも断られそうだが、商業ビルやコンドミニアムであればプロモーションの一環として認めてくれる場合もあるのではないかという気もしないこともないが、失敗して墜落した場合に、いわく付き物件になってしまうというリスクを考えるとやはり断られるであろうことは予想に難くない。



『ザ・ウォーク』を観ていて感じたことはいくつかあるが、この映画は職分の追求ということをテーマにしているものとしてみると、学ぶところは多かった。

例えば、ワールドトレードセンターに入って準備をするときには、途中で警備員がやってきたり、そもそもエレベーターが使えずに決行日に間に合わなくなりかけたり、様々なアクシデントがあったが、これは綱渡り師としての仕事というよりは、そもそも環境を整えるまでに大きく消耗しているという状態になる。

しかしながら、主人公のフィリップ・プティが言うところの衣装部屋、といってもワールドトレードセンターにおいてはただの屋外ではあるのだが、そこの重要性ということは語られていた。

衣装部屋で着替えを済ませることによって、綱渡り師はパフォーマーへ、そしてさらにいえばアーティストへ身を変えるのだというセリフは、今流行りのルーティンとも繋がるものがある。

そして、正規の挑戦に挑むフィリップ・プティを送り出したのは、恋人のアニーでも最初のほうに仲間になったカメラマンのジャン・ルイスでもなく、高所恐怖症という、この任務においては大きなハンデを背負ったジェフだった。

彼とフィリップ・プティがこのチームの中で特別親密という描写はなかったが、結果的に、最もナーバスになるタイミングに立ち会ったのはこのジェフだったが、最も気持ちを落ち着けないといけない場面で、誰が近くにいるかという人選は非常に重要なこと。

そして、結果的にジェフはその役目を無事に果たしたことになる。

その後は、綱渡りの緊張感が描かれるが、映画であることは分かっていても、落ちそうになるハラハラと、ドキドキが続いて改めて、この『ザ・ウォーク』という映画に引き込まれていることを感じた。

フィリップ・プティは、師匠のパパルディに弟子入りした際、最初はまだ若く観客に感謝の念を持つように言われても納得ができず、結局パパルディの下を一度は離れた。



しかしながら、ワールドトレードセンターを渡り切るためにパパルディに再びアドバイスを求めに行ったときには、あの時の言葉がわかったと話し、そしてこのワールドトレードセンターの綱渡りの最中には、綱や支えてくれているビルに対しても感謝の気持ちが湧き出て、恐怖も危険も存在していなかったと表現されている。

これはまさに、職分の追求をしていった結果として味わえる恍惚の瞬間で、フロー状態と呼ばれたりもするが、感謝というのは感情の中でも特別な意味を持ち、脳からセロトニンが分泌された状態になる。

これは、アドレナリンやドーパミンとは違った作用を持つこととなり、深い瞑想などでも得られることが指摘されているが、その境地に自らの仕事を追求した結果として主人公は達したことになる。

その後、渡りきったところですぐに警察に逮捕されるが、警官の1人からは自分が生きている間はもう二度と見ることができないだろうと賞賛され、そしてアメリカ社会からも絶賛され、フィリップ・プティは受け入れられたことになる

そこに偉業の達成を賞賛するアメリカの懐の深さを感じるとともに、ノートルダム大聖堂の綱渡りを成功させた後、スペインやイタリア等の海外メディアは好意的な反応して示しているのに対して、フランスだけは悪意を持っていると主人公は憤慨していた場面が思い出される。

この『ザ・ウォーク』という映画は、アメリカの作品なので、そこら辺は敢えてフランスとの対比を意識したのかもしれない。

職分の追求というテーマでこの作品を見ていたが、作品そのものが約2時間という決して短くない時間であるにも関わらず、あっという間に終わったように感じられたのは、やはりリズム感の良さのなせる技だろう。

もう一度観る機会があれば、今度はその点に着目して鑑賞してみたい。



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執筆者、伊田武蔵
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