マズローの自己実現欲求とは、5段階の欲求の中で
最上位に位置するもの。
一般的にはピラミッドの最上位に該当すると考えられている。
実際にはその上にコミュニティーの発展欲求が存在することを
マズローは意図していたという話もあるが、
それは今回の話とはあまり関係ないので割愛する。
自己実現に至るまでには、
その下位の4つの段階をすべてクリアする必要がある。
まずは最下層の生理的欲求。
生きていくために必要な最低限の条件が満たされなければ、
当然ながら崇高な理想なんて求めることはできない。
その日の食事等がこれに該当する。
さすがに日本人でこの段階にいる人は少ないが、
私が移住したフィリピンには少なからず存在する。
暮らしているエリアが違うので、
見かけることはほとんどないが・・・。
ゴミの廃棄場所であるスモーキーマウンテンで
売れるゴミを拾って暮らしている人の場合、
この生理的欲求の段階にいることが多いだろう。
1つ段階が上がると安全の欲求になる。
まだ下から2番目の段階ではあるものの、
この層にいる日本人は少なくない。
特に若い世代は非正規雇用の問題等で近い未来の安全すら
確保できていないこともある。
まして長期的に考えると、
日本の年金や医療、介護の崩壊等悩ましい問題が山積み。
マズローの提唱した5段階の中でも、
安全欲求はかなりの人に該当する。
ビジネスの面で考えると、
この安全欲求の層にいる人を相手にすると
わかりやすく誘導できる上にボリュームゾーンなので
売上や利益を最大化しやすい傾向にある。
将来の安心やお金の問題に関する商品の場合、
この安全欲求に訴えかける場合が多い。
不思議なもので、日本のような先進国よりも、
フィリピンやマレーシアのような新興国のほうが
長期的な未来への安全欲求は満たされている傾向にある。
国が伸びていく時期というのは、
将来に向けて安心感があるので。
これらの国は人口ピラミッドもきれいなので、
従来型の社会保障システムも当面の間は存分に機能する。
だからこそ、彼らは少ない収入を迷わず使い切れる。
将来のために貯蓄に回したりしないので、
平均収入は少ないのに消費は旺盛になっている。
そして上からも下からも3つ目の段階となるのが所属の欲求。
他人と結びつきたい、関わりたいという気持ち。
安全欲求と共に、所属の欲求はボリュームゾーンなので、
マス向けのビジネスはこのどちらかを対象にしていることが多い。
人間関係がもっとも幸福感に影響を及ぼすという研究もあるほど、
やはり人には他人が必要。
それだけ、人間は社会的な動物であり、
孤独であることは幸福度を下げ、健康にも悪影響を及ぼす。
特に自分が認めている相手と対等に付き合いたいとか、
そうしたコミュニティーに所属したいという気持ちは強い。
典型的なところで言えば、
ある程度ビジネスがうまくいった人が
経営者同士のコミュニティーに入りたがるようなもの。
昔なら名士の集いと呼ばれたようなものに
所属したがる人がいたのもマズローの説によれば当然のこと。
そして、これは古今東西を問わない欲求ということになる。
そして上から2番目が承認の欲求。
他人に認められたいという自己顕示を求めるようになる。
「あいつは最低なダメ人間だ」
と思われたい人はいないだろうし、
あわよくば尊敬されたり賞賛されたりしたいもの。
こうした気持ちを利用した富裕層サービスもある。
明らかに成金しか反応しないような言葉を使い、
資産運用の代行をしていた組織があるが、
ここは完全にマズローが言う承認の欲求に特化していた。
クルージングとか高級車を乗り回す仲間とのツーリングとか、
そうしたビジョンをその組織は見せていた。
その後、色々問題を起こしていたが。
ここは成金の承認の欲求に訴えかけるために
エグゼクティブしか入れないことをしきりに強調していた。
典型的な所属の欲求に対する働きかけということになる。
所属の欲求は対等に付き合っていけば満たされるのに対し、
承認の欲求は自分が上に見られたいというもの。
これは全面的に人間として上に見られなくても、
ある部分で認められるだけでも問題ない。
もちろん、それが自分にとって
重要な分野であることが望ましい。
ここまでのマズローの欲求5段階説の
4つのすべてを満たした後、
ようやく出てくるのが自己実現の欲求。
ボリュームゾーンが所属や安全の欲求であることを考えても、
この部分は非常に人数は少ない。
本当の意味で言えば、
日本人の人口の15%もいないだろう。
むしろ厳密な意味で言えば、5%を下回ると思われる。
マズローは自己実現の欲求の上を想定しており、
それはコミュニティーの発展願望や
自己超越の欲求、他者貢献願望等とされている。
それが曖昧になっている理由の1つは絶対数の少なさが
1つの要因となっている。
研究しようと思っても、対象が少ないので
マズローとしても思うように検証できなかった可能性がある。
自己実現の欲求の場合、
その具体的な形は個人差が大きい。
そのため、特定のサービスを提供することによって
満たすことは困難。
カスタマイズできることが必要になる。
そのため、ビジネスで考えると
少数を相手に個別対応できる形式にする必要があり、
必然的に高額サービスにせざるをえない。
安全の欲求や所属の欲求は
最大公約数的なサービスでも満足度を高められるが、
自己実現の段階にある人にはそれが困難なので。
なお、人によって自己実現の欲求の形が異なるように、
それ以下の4つについても基準は変わる。
不安が強い悲観論者は安全の欲求をいつまでも求め続ける。
自己顕示欲が強い人は、
他者からの承認を求めてパワーゲームを続ける。
その一方で、あまりこだわらずに次のステップに
進んでしまう人もいる。
たとえば、ボランティアやNGO法人で働き、
特にお金も地位もなくても4つの欲求が満たされ、
自己実現までたどりついてしまう人もいる。
人数的には多くはないが。
マズローの定めた欲求の5段階うち、
上位に位置するほどに価値のある人生を歩んでいるとか、
人間として上等ということではない。
あくまで分析法の1つでしかないので、
自己実現欲求に到達することを目標にするのは
意味がないと言えば意味がない。
どちらかと言うと、
この方法は自分自身を分析する時というよりも、
マーケッターが商品のターゲットを決めるような時に
力を発揮するものなので。
自己実現ビジネスの大半は嘘
マズローの欲求5段階説を持ち出して、自己実現の助けをうたったサービスを提唱するビジネスは
この数年で増えてきたように見受ける。
ただ、それらを観察していると、
実際にはもっと低次の欲求の段階にいる人を
対象にしていることが明らかだったりする。
自己実現という美名の元に活動すれば
他者からの尊敬を得られるという目論見のもと、
承認の欲求を満たすために参加するひとを誘発していたり。
意識の高い仲間と付き合いたいという
所属の欲求を満たしていたり。
本当の意味でマズローの言うところの自己実現の欲求に
直結したビジネスを行うのは容易ではない。
個別性も高いため、パッケージ化も困難な傾向にある。
巷で言われる自己実現ビジネスがうさんくさいのは、
こうした事情を一切無視して
耳に心地よい言葉を並べて
まったく違う属性の人を集めているのが透けて見えるため。
本当は安全の欲求に支配されている人でも、
自分はもっと高次な自己実現段階にあると認められれば
やはり悪い気はしないもの。
商品内容では安全欲求を刺激され、
うわべでは自己実現を志す崇高な人のように扱われる。
そこに気分を良くして購入者が殺到している例も見てきた。
おだてられて簡単にのせられてしまう側もどうかとは思うが、
全て分かって仕掛けている側もいかがなものかと。
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