台湾移住の終わり、バンコク生活の始まり

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台北の外れにある桃園空港で
バンコク行きの飛行機の出発を待ちながら、
これまでの一年を振り返っていた。



空港では荷物の重量が12キロを越えていたが、
各国の小銭等をポケットに入れて最計量し、
タイガーエア台湾のチェックインを無事クリアした。

スーツケースの中身は
自然界におけるエントロピーと同様で、
放置しておくといつの間にか増大する。

なぜいつの間にか
12キロを軽々越えているのだろう?


イミグレでは常客証を出すまでもないほど空いていた。

飛行機の出発は一時間ほど遅れているとのことだったが、
原因は不明。

気候の問題か、飛行機の混雑なのか、
整備やトラブルに関わる問題なのか、
最後までわからずじまいだった。

とは言え、台湾での最後の時間を惜しむには悪くない。

ついにあこがれのタイ生活が始まるというのに、
感傷的な気持ちに浸ってしまっていたのは、
それだけ台湾での暮らしが心地よかったから。


コンドミニアムに付いていたサウナや露天風呂は、
しばしば運転中止になっていて、
現在使えるのかは分からなかった。

移住してきた当初は頻繁に使っていたが、
冬の訪れとともに露天風呂が改装を始め、
それ以来使っていない。

最後に使いたい気持ちもあったが、
確認が面倒で保留になったまま退去日を迎えた。


不思議なもので、
一年も暮らしていると物が増える。

一応ミニマリストに近い暮らしをしているつもりだったが、
退去を控えて何度もゴミ捨て場へ向かうことになった。

ヨガマットやバランスボール、各種の食器、
冬用の服、その他もろもろ。

タイに持っていくつもりのない荷物を処分するのには
一苦労だった。

台湾に住んでいた間に、
これだけの物を増やしていたとは。

無自覚に物が増えていくことには驚かされる。

こうして定期的に断捨離する機会があるのは、
身軽に生きていく上で十分な意義があるので、
汗を流した甲斐はあったとは思う。


タイへの出発前日には台湾の部屋を引き払い、
不動産業者とオーナーさんの立ち会いのもと、
部屋のチェックと引き渡しを完了していた。

つい数分前まで自宅だった部屋を出てから、
徒歩3分ほどのホテルに移った。


台湾で過ごす最後の夜だが、
お世話になった人との別れは済ませていたし、
国立台湾美術館も先日再訪したばかり。



SOGOの紀伊國屋書店にでも行こうかと思ったが、
バンコクにはもっと大きな紀伊國屋書店があるので
やめておくことにした。

最後の晩餐は行きつけのベジタブルレストランへ行ったが、
まさかの臨時休業。

しまらない感じだったが、
近くにあった八方雲集で餃子を食べて済ませることにした。


翌日に高速バスで台中の朝馬バスステーションから
桃園空港まで移動。

台湾新幹線を使うより、
乗り換えが少なくて便利なので
こちらのルートを使うことにした。

できれば台中空港からのフライトが良かったが、
バンコク行きとなると台北経由になってしまう。

地方空港の悲しいところだが、
これは致し方ないところだろう。

ちなみに、以前利用した時には、
自宅から台中空港までタクシーで約30分、
料金は520台湾ドルだった。



それにしても、
今後の人生で台中空港を再び利用する日は来るのだろうか。

一年にわたって
濃密に関わってきた街なのに、
もう二度と訪れることはないかもしれないという不思議さ。

まして、自宅に至っては
退去の瞬間以降、
確実にもう足を踏み入れることがない。

これはどの国で部屋を借りても同じことだが、
数分前まで自分の部屋だった場所が
まったく無縁になるというのは奇妙な気もする。

自宅という密接な関係が、
ある瞬間に完全に断絶されるのだから
どこか寂しく感じてしまう。


そして、この1年で開拓してきたレストランやお茶屋も、
数年後に台中を訪れることがあったとしても、
どれだけの店が残っているのだろう?

お茶屋は不思議と増える一方で、
経営が成り立つのか心配になるほどの競争が繰り広げられているのに、
なぜか店が潰れない。

レストランは潰れる店も多く、
昭和ラーメンは気に入っていたのだが、
ある日突然休業に入ったと思ったら、
そのまま内装撤去の工事が始まってしまった。

台中は飲食店の新陳代謝が活発な街で、
生き残るのは容易ではない模様。

5年も経ったら、
いきつけの店の半分ぐらいは潰れているかもしれない。

今ここでは当たり前のものが、
数年後には移り変わっていたとしても、
なんら不思議ではない。

もっとも、新興国での暮らしも長くなってきたので、
そうしたことに驚かなくなってきたが。


タイでの生活の準備を始めるかのように、
台湾での最後の数日は急に気温が上がった。

つい一ヶ月前までは冬だったのに、
2週間ほどの春を挟んで
急に夏まで気温が駆け上がったかのように。

とは言え、4月はタイで最も猛暑の時期なので、
身体を慣らすためにはちょうど良かった。

自宅でヨガをしても汗をかかない時期になっていたが、
バンコクでは一気に暑い季節を迎える。

ひょっとするとサウナが付いているコンドミニアムに
住むかもしれないので、
そうなればデトックスには最適な環境かもしれない。


移住は人間関係や習慣のデトックスにもなるので、
また新しい要素を取り込む余地ができる。

そこで取り入れる要素については
構想がないわけでもないが、
タイにおいては流れに身を任せることを
できれば重視してみたいと思っている。

毒はしっかり避けながら、
それ以外は実験的にもろもろ取り込んでみるぐらいの
懐の広さがあってもいいのではないかと。


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