マレーシアにおいては、人種間の利害の調整のためにブミプトラ政策が行われている。
これは経済に関する政策で、ざっくりと言うとマレー系の住民を保護・優遇しようというもの。
放っておくと、アジア各国の経済は、どんどん中華系が牛耳っていく。
実際にマレーシアやフィリピンにおいても、富裕層の割合は中華系が多く、現地の人たちは単純労働とか、あるいは月に数万円程度の月収しか得られないで暮らしていくことが多い。
当然ながらこういった情勢には民族間で反感も生まれてくるし、マレーシアの場合には、中華系が中心となってシンガポールが独立した経緯がある。
その後シンガポールはすでに先進国の仲間入りを果たして、その一方でマレーシアはいまだに東南アジアの新興国の1つにとどまっている。
新興国としての経済力しかない上に、その社会の上の方はなぜかよそ者である中華系が牛耳っているということで、マレー系の住人にとっては不満が溜まるのは当然のこと。
こういったこともあったので、様々なデモであったり、衝突が起きた歴史的な経緯がある。
そこで、マレー人を経済的な面で優遇しようという政策として、ブミプトラ政策が1971年より行われている。
現在も続いているブミプトラ政策だが、推進役としてマハティール元首相が大きな役割を果たしたことでも知られている。
民族間での格差の現実
私がマレーシアに移住して現地の人から聞いた話だと、だいたいマレー系の場合だと、平均的な給与が月に10万円程度、これが中華系になると12万円程度になって、一方インド系の場合は8万円程度となる。
これは彼らの生活ぶりを見ていても納得できるところで、だいたい高級店にいるのは中華系の住人。
そして、彼らは小規模なビジネスをしたり、あるいは小さな会社を経営するところから、シャングリラホテルが所属するクオークグループのように、マレーシアを代表する大企業の経営まで、様々なところでビジネスセンスを発揮している。
マレーシアの資産額で上位40人を調べたら、中国系が8割を占めていたという報道も。
人口比でみた場合、マレー系が70%弱、中国系が20%から25%、インド系が10%弱程度なので、ブミプトラ政策の背景として指摘されるように、人種間での資産のかたよりがいびつなのが伺える。
その一方で、マレー系の住人は労働者の立場に甘んじているところがあるし、インド系に至っては、その中でもあまり求められていないというか、人気のない業種につくことが多い。
そして、治安維持という目的にしても、政治上の駆け引きとして得票数を伸ばす目的にしても、いかにしてマレー系の不満をガス抜きするかに照準が合わせられ、結果としてブミプトラ政策というマレー人優遇政策がができた。
これは自然な流れだろう。
なお、マレーシアで連立与党であり最大政党である国民戦線は、マレー系の支持によって現在の地位を築いている。
一方、インド系住民があまり恵まれない境遇にいるのは、結果的に彼らの犯罪率の高さにも繋がっている。
実際、マレーシアにおいてインド系の住人はそこまで人数が多いわけではないものの、民族別で見た場合の犯罪率は、他よりも高くなっている。
さらに、マレーシアで生活した者として体験したところだと、タクシーに乗っていて、もめることが最も多いのはやはりインド系ドライバー。
そういった意味で、彼らのタクシーには、もう途中から極力乗らないようにするといった対策も立てていた。
インド系は人口も多くないことから、ブミプトラ政策でも特に重視されることなく、優遇政策の網から漏れる格好になっている。
多民族国家の苦悩
マレーシアは多民族国家である一方で、それぞれがうまく調和しているわけではなく、今でもデモが起きたり、かなり対立軸がはっきりとしている。
クアラルンプールの日本大使館へパスポートの更新に行った際、手続きの合間に現地のフリーペーパーを眺めていたが、ペナンで政治家が「中国系マレーシア人は犯罪まがいのことで稼いでいる」と発言して問題になっていた。
こういった問題は日々起こっていることで、3つの民族が溶け合って融和しているわけではない。
かなり昔のことにはなるが、1969年には5月13日事件と呼ばれるマレー系と中国系の衝突・暴動が起きており、196人の死亡者を出すに至っている。
この5月13日事件については、北海道大学のマレーシアにおける国民統合というレポートで詳しく考察されている。
どういうわけか、マレーシアはアメリカやドイツ等と比べると多民族がうまく協調していると一部の人に誤解されがちな気がする。
しかし、実際には日常的に軋轢は起こっており、火種がくすぶっている状態で、それを緩和するための方策がブミプトラ政策ということになる。
これは経済格差の問題だけではなく、マレーシアに移住して感じるのは、やはり人種・民族ごとに子どもたちもグループを作っているということ。
アメリカでもこのような傾向が指摘されているが、マレーシアでも同じ。
また、友人が中国系マレーシア人の若者と仲良くなって聞いた話だと、彼らから見ると「インド系やマレー系とはつるみたくない」らしい。
こういった意識は、社会に出る前の学生時代から存在するもので、多民族国家としてうまくやっていくのは想像以上に困難な事業であることがうかがえる。
民族の壁を越えて、うまくやっていくのがいかに難しいかということは、ブミプトラ政策をとってみてもよくわかる。
実際、ブミプトラ政策については、マレー人を優遇する政策について逆差別との根強い批判もあるし、一方では当然だという話もある。
アメリカでもアファーマティブ・アクションによって、同じ成績でも白人以外の学生を入試において優遇したりすることが、本当に正義にかなっているかどうか議論になっているし、哲学的にも立場によってアファーマティブ・アクションへの評価が違ってくる。
マレーシアのブミプトラ政策についても、それぞれの民族の利害が真向から対立しているわけなので、この辺については今後も根深い問題として解消されることなく、しこりを残し続けるのだろう。
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