南国マレーシアの物価は、日本に比べて著しく安いイメージがある。
日本の半分や1/3の生活費で暮らすことができるといった情報を目にしたこともある。
テレビでもそういった特集が繰り返し放送されているようで、現地に住んでいる身としては、かたよった情報が誤解を招いていると感じるところ。
確かに現地の人の所得水準を考えてみると、月収が10万円ということはざらにあるわけなので、そのくらいの生活費で生計が成り立つのは、あながち間違いではない。
しかしながら、それが日本人にも当てはまるのかというと、かなり間違っているというのが実際のところ。
私自身も2年以上マレーシアに住んできたし、さらにはマレー半島の最南端のジョホールバルからマラッカ、クアラルンプール、イポー、バタワース、ペナンと北へ北へ縦断をしたりもしてみたが、物価に関して言うと、かなり間違った情報が日本人に届けられているという風に感じている。
そこで今回は、このテーマについて現地の実際のところを語ってみることにした。
マレーシアの人件費は周辺国より高い
タクシーの初乗りは3リンギットと、日本円で100円を少し超える程度。
こういったところにはマレーシアの物価や人件費の安さが表れているものの、単純に安さだけではなく、質も考えておかなければいけない。
マレーシアでは周りの国と比べてもタクシーのトラブルは多いし、私自身もタイやフィリピンと比べ、マレーシアでは圧倒的にタクシーに乗りたくない。
しかしながら、移住先が車を使わなければ生活できない場所だったこともあり、渋々タクシーを利用する場面も多々あったが、かなりの頻度でトラブルに巻き込まれた。
単なる乗車拒否や運賃の引き上げ程度であればどの国でもよくあることだが、マレーシアの場合、運転手が途中で当初の合意よりも料金を吊り上げてきたり、それを突っぱねると怒鳴ってきたりすることも多々ある。
特にインド系の運転手は、この傾向が強かった。
周りの国と比べてもタクシー料金はほとんど変わらないものの、より人件費が反映されるマッサージや美容院に関して言うと、少々価格が割高なところがある。
と言っても日本に比べれば圧倒的に割安で、例えばクアラルンプールのブキビンタンエリアは多数のマッサージ店が集中していることで有名だが、1時間のフットマッサージやタイ式のマッサージを受けて1500円~2000円程度。
バンコクと比べると、1.5倍~2倍程度の料金とはなっているものの、日本の半額以下でマッサージを受けられるので、圧倒的に安い。
美容院に関しては、パビリオンのような高級ショッピングモールの中ではなく、Lot 10のような微妙なショッピングモールの中に入っているところであれば、3000円程度で切ってもらうことができる。
これも日本の感覚からしてみればかなり安めだが、タイやフィリピンの3割増しぐらいということで考えると、周りの国よりは若干割高ということになる。
観光にかかる費用は?
旅行者にとって気になる旅費については、無料で観光できる場所がかなり多い。
たとえば、マレーシアの国立モスクであるマスジッド・ネガラやブルーモスク(Masjid Sultan Salahuddin Abdul Aziz Shah)、ピンクモスク(Masjid Putra)の場合、入場料に加えて肌を隠すための衣装も無料で貸してもらえる。
あるいはバトゥ洞窟も無料で入れる。
一方、マレーシアのお土産でもモチーフとしてよく見かけるクアラルンプールのペトロナス・ツイン・タワーの場合、入場料は80リンギット。
バードパークは48リンギットとかなり高めに設定されているかと思えば、国立博物館は5リンギットと大きな差が付いている。
ペナンの場合、ジョージタウンのペナン博物館が1リンギット、極楽寺はパゴダ(仏塔)に入る場合だけ2リンギット等。
ペナンと言えば海を目当てに訪れる人が多く、一方でほとんどのビーチはホテルのプライベートビーチとなっている。
そのため、バトゥ・フェリンギを中心に、どのホテルに泊まるかが鍵となる。
マラッカに目を向けると、スルタンパレスが2リンギット、スタダイスが5リンギットだった他は、サンチャゴ砦、セントポール教会跡、オランダ広場等を訪れたがどこも基本的に無料。
旅費はホテル代と交通費ぐらいだった。
ちなみに、映画は15リンギット程度と日本の半額以下のため、スコールに降られた際の雨宿りにも使いやすい。
ホテルは世界的にも安い
マレーシアの物価を考える上で、特に旅行者にとって嬉しいのはホテル代の安さ。
明らかに需要に対して供給過剰で、時には5つ星ホテルに泊まるのに一泊1万円を切ることすらある。
バンコクよりもクアラルンプールの方が1〜2割安い印象。
もちろんシンガポールとは比べるべくもない。
ただし、クアラルンプールの安さが目立つため、地方に行っても極端にホテル代が安くなるわけではない。
マレーシアで最も有名なビーチリゾートのペナンは、クアラルンプールよりもホテル代が割高な傾向にある。
生活必需品は安い
単純な物価の安さに加え、マレーシアでは生活必需品とされる品目には欧州の多くの国と同様に軽減税率が適用されていた。対象は米、砂糖、塩、小麦粉、食用油、食肉、野菜、バス、モノレール、住むための不動産等。
GSTという日本の消費税に当たるものが、上記の品目については免税扱いとなるため、贅沢品と生活必需品で扱いが変わる。
貧しい人でも生活が成り立つように設計されているが、食品や一部の交通費等は外国人移住者や旅行者にとっても恩恵を受けられた。
さらに、2018年6月にGSTが撤廃されたことによって、ますますシンプルでわかりやすく、さらに税制上のメリットを旅行者や移住者でも享受できるようになった。
生鮮食品の中でも果物は安く、現地での価格の一例を挙げると、マンゴーがキロ15リンギット、グアバが9リンギット、マンゴスチンが12リンギット、ドリアンが26リンギット、ドラゴンフルーツが5リンギットといったところ。
飲み物だと1.5リットルのミネラルウォーターが1.5リンギット、同じく1.5リットルのコーラが3.6リンギット、330mlのタイガービールが8.2リンギット。
イスラム教の国だけあって、本来飲酒は推奨されておらず、酒税の関係でビールは高め。
とは言え、サウジアラビアのように厳格なわけではないので、普通にスーパーでお酒を買えるし、レストランでもお酒を飲める店は多い。
鶏肉は100グラムが1.9リンギット程度から、食パンが一斤で2.1リンギット、カップ麺が1.6リンギット。
豚肉は日本でもおなじみのジャスコ等で購入できるが、イスラム教徒は豚肉に触れないため売り場が隔離されており、原則として会計もその場で済ますようになっている。
移動は便利で安め
タクシーはトラブルが多いので快適な移動手段とはいえないが、クアラルンプールだと地下鉄およびスカイトレインが整備されている。
カバーしている範囲は限られているものの、料金は1.2リンギット(40円程度)から。
間隔は10分弱程度で、スカイトレインはなぜか2車両しかない。
かなり混んでいるので、もっと車両を増やしてほしいところだが・・・。
クアラルンプールはある程度お金を持っている人は車移動が基本なので、隣のバンコクに比べると電車移動をしている人は経済的にも豊かではなさそうな人が多い。
バンコクの地下鉄のようにタブレットやスマホを出して使っている人が大半で、服装もきれいという状況を見慣れていると、乗るのに少し抵抗を感じる。
国内の長距離移動ではKTMという高速鉄道やバスが一般的。
クアラルンプールからイポーまでのKTMだと、2時間ちょっとの旅路で35リンギットだった。
バスでクアラルンプールからマラッカまで行くと、同じく約2時間で10リンギット程度と交通費は安い。
また、エアアジアの本社がマレーシアにあり、クアラルンプール国際空港が本拠地となっているだけに、安くで周辺国へのフライトを利用できるのもメリット。
バンコクやシンガポールへは片道5,000円を切るフライトも珍しくなく、時には2,000円台ということも。
長距離フライトでLCCは厳しいが、クアラルンプールから東南アジア各国に飛ぶ場合には距離も近いため、エアアジアは重宝する。
日本人が住む場合の家賃は安くない
マレーシアに移住する人にとって、生活費の中で大きなウエイトを占めるのが家賃。
この部分の費用がどうかというと、クアラルンプールのモントキアラという日本人や外国人が多く住む郊外のエリアであれば、単身者向けのコンドミニアムであっても、家賃6万円~7万円が、選択肢がある程度確保できる最低ラインということになる。
それ以下の物件が見つからないわけではないものの、治安の問題とか、建物の管理状態とか、そういったことを考えると、あまり有力な選択肢にはなりづらい物件が中心。
家族連れで行った場合には月の家賃が10万円を超えることもざらにあるし、家賃の部分に関して言えば、マレーシアの物価が極端に安いということは、すでになくなっている。
東南アジア各国に共通して言えることだが、世界中で現金があり余り、そのお金が新興国に流れてきているために家賃の上昇率は高く、その影響はクアラルンプールやマレーシアの各地についても例外ではない。
特にクアラルンプールやペナンのような、移住先人気都市はこの傾向が著しい。
そして、家賃の上昇率よりも物件価格の方が急激に高騰しているため、コンドミニアムや一軒家を買おうと思った場合、より物価の上昇に驚かされることになる。
そのため、家賃に関しては、日本の地方都市に住む場合よりも、かえって割高になっていたりする。
ただ単に節約を目的にマレーシアに移住して外国人向けのコンドミニアムに住み、月に何度か和食やイタリアンを食べるぐらいなら、日本の地方都市に住む方が合理的にも思える。
ダイソーで見る物価の話
クアラルンプールにあるパビリオンというショッピングモールには、東京ストリートと呼ばれるエリアがある。
この東京ストリートにはダイソーも出店している。
価格は5リンギットが基本となっているので、日本円に換算した時に、だいたい180円~190円ぐらいとなっており、日本の倍ぐらいの価格になる。
品揃えに関しては日本のダイソーとたいして変わらないので、物価が安いどころか、マレーシアの方がダイソーについては割高になるが、それでも現地の人を中心に、店はいつも賑わっている。
単純な賃金水準だけで生活費や物価を語ることができないのは、マレーシアをはじめとした新興国に共通して言えること。
将来への不安が少ない国では、貯蓄に回す資金に気を配らなくていい。
また、マレーシアも多くの外国人や国内の富裕層が住んでいるわけで、庶民とそれらの層との差は大きい。
食品に関しても、果物や野菜に関しては日本よりも割安感があるものの、和食レストランやイタリアン等の店に行けば、日本とたいして変わらないぐらいの価格はするので、極端に物価が安いとは言えない。
マレーシアに移住した典型的な日本人らしい生活を送れば、生活費を日本在住時の3/1にカットすることは到底不可能。
半分にすることも困難だろう。
コストを3/2にして、日本とは諸条件の違う環境を享受できると考えるのが妥当な線。
コストパフォーマンスが悪いものも
マレーシアだと服の価格が比較的安く、これは特にクアラルンプールにおいて感じること。
逆にペナンやジョホールバルにおいては、そもそも安くで服やバッグを売っている店があまり多くない。
クアラルンプールであれば、例えば、インビ駅(Stesen Imbi)に隣接しているベルジャヤ・タイムズ・スクエアというショッピングモールは格安なものを中心に売っていて、バンコクのプラチナムショッピングモールよりいくらか整然とした場所という印象がある。
ここであれば、5リンギット程度でタンクトップが売っていたりはするが、デザインや生地の縫製に問題があり、決してコストパフォーマンスは良くない。
まして、5千円ぐらいのTシャツのように日本とたいして価格が変わらない店で買っても、作りがかなり適当だったりするので、いまいち割安感はない。
この辺りは隣国のタイと比べるとかなり事情が違ってくるので、マレーシアに住んでいても服を近所で買うのではなくて、バンコクに遊びに行った時にまとめて買ってくることが多い。
これは靴やバッグについても、同じことが言える。
こういった事情は、マレーシアに住み始めるまでは、あまり漏れ伝わってくることがなかったところ。
しかしながら、現地に住んだだけで単純に物価の安さを享受できるわけではないし、シニア世代が老後にリタイアメント先として悠々自適な年金暮らしをする場所としても、必ずしも適しているとは言えない現実がある。
もちろん、ある程度の額の年金をもらえる人であれば、老後をゆったりと暮らすことができるが、月10万円程度の年金しかないのであれば、マレーシアの物価を考えた時に、決してゆとりのある暮らしを送ることはできず、カツカツの生活になる可能性も十分に出てくる。
海外に移住するのは本当に難しいのか?
日本を出て海外に住むようになってから
「海外に移住したい」という話をよく聞くようになった。
同時に、
「英語が苦手で・・・」
「海外での部屋選びで失敗しないか不安」
「他の国での生活を想像できない」
「下見で何を確認したらいいか分からない」
「移住後の仕事やお金が問題」
等々の様々な不安や悩みも耳にする。
そこで、10年以上海外で暮らし、
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