スイスが国民投票を行って、外国人の移民を規制するという内容に賛成が過半数となった。
スイスはヨーロッパの中でもかなり特殊な国で、永世中立国である他に、そもそもEUに非加盟の国として知られている。
人口は800万人と東京都よりも少ないレベルの小国ではあるが、地政学的には決して無視できない位置にあり、一人あたりのGDPも84,000ドルを越え、世界でも指折りの豊かさ。
あの地理的な条件を考えると、当然のごとくEUに加盟しているように思われるものの、そういえば私が以前にヨーロッパにいった際も、スイスは独自の通貨、つまりフランを使っていた。
EUに加盟したからといって全ての加盟国がユーロの採用をしているわけではなくて、イギリスについてはポンドを使っていたのは知られている通り。
もっとも、イギリスもEU脱退の流れになっているが。
しかしながら、スイスについてはそもそもEUに加盟しておらず、そのルールに縛られることはない。
ただし、EUの協定によって移民の自由な移動を約束していたので、今回の規制でその点について摩擦が生じるのではないかという懸念がある。
それにしても、今回は僅差で移民規制賛成派が勝利という結果に終わったが、今後もこういった動きはどんどん出てくるのではないかと思う。
そもそもスイスに限らず、ヨーロッパは外国人の移民について頭を悩ませている国が多い。
基本的に豊かな国は貧しい国から人が流れてくることによって自国民の雇用が奪われ、社会保障費まで増大してしまう。
治安が悪化する場合も多々あるし、こういったことについては神経を尖らせているのが実際のところ。
たしかにマドリッドやミュンヘンを訪れて、街の一部の荒廃ぶりを目の当たりにすると、移民を規制したくなる気持ちもわかる。
ヨーロッパ大陸だと、移民の受け入れ体制についてフランス型とドイツ型の2種類に大きく別れ、やや亜種のイギリス型が存在するが、どれも功を奏しているとは言えない。
人権や社会的な大義名分を捨てた本音として、移民規制を求めるのは自然なことだし、大国としての意地や国際的な影響力への配慮すら越えて、ドイツですらメルケル首相が移民政策の失敗を認めるに至っている。
福祉におけるフリーライダーの問題
さらにいうと、北欧の福祉国家に関しては、無制限に移民が来てそれを自国民と同じように取り扱うという前提に立てば、高齢になって介護が必要になってから北欧の諸国に移住すれば不当利得になってしまって、当然国家予算が破綻してしまう。いわゆるフリーライダーが大量に流入することで、もはや収拾がつかないことになる。
そもそも北欧各国が福祉国家になれたのは、せいぜい人口が数百万人程度の小規模な国だから。
たとえばスウェーデンの人口は960万人程度。
スイスよりは若干多いものの、それでも人口の面では小さな規模の国であるのがよく分かる。
国土は小さくはないが、国民は少ないので機動力のある国政運営ができる強みがある。
逆に言うと、そういった人口が少ない国に移民が流入して社会保障を要求することになってしまえば、簡単に財政が破綻してしまうことにもつながる。
何らかの規制を求めるのは、高い税金を払ってきた国民として自然な心理だろう。
そういった事情があるため、当然ながら移民について様々な規制が存在しているわけだが、スイスに関しても人口は約800万人しかおらず、さらにいうと外国人がすでにが23%を占めている。
これから移民を制限したとしても、これまでに十分に受け入れているわけだし、23%が外国人という数字を見ると、日本から見れば異常にすら思える。
言語も混在した環境
スイスに移住した人に話を聞く機会があったが、スイスは単一言語で暮らせる国ではなく、公用語だけでもフランス語・ドイツ語・ロマンシュ語、イタリア語が指定されており、他に英語もよく通じる。
しかも、地域によってどの言語が主流であるかが異なり、スイス国内で引っ越すだけでも言語環境が違ってくる。
たとえばチューリッヒや首都ベルンの場合は主にドイツ語が使われている。
外国人が約4分の1を占め、なぜ一国にまとまっているのか不思議なほどの多言語環境。
そのスイスが移民の流入を拒否したのは興味深い。
今後世界の先進国にどんどん余裕がなくなって行く中で、国境がどのような受け止められ方をしていくのか、移民についてどのような世論を形成していくのか、この点についてはかなり興味深いところ。
グローバル化が進んでいた世界は、確実に揺り戻しでナショナリズムが強くなっている。
ただし、その潮流は世界全体に波及しているわけではなく、移民を規制したい国が一部にあるだけで、世界の多くは移民を輩出する側か、あまり関係のない国。
この混在ぶりは様々なチャンスをもたらすと予想される。
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