イギリスの隣、アイルランドの伝統料理、アイリッシュシチューはまずいという噂を何度か耳にしたことがある。
一方、食事がまずいことで有名なのは、アイルランドと地理的にも文化的にも近いロンドンだろう。
個人的には、ロンドンもかつてとは違い、食事のレベルが他の街に比べて著しく低いとは思わない。
百年前ならいざ知らず、現代においてあれだけの経済規模の都市が料理の面でレベルが向上していないということはあり得ない。
そういったことがあったので、アイリッシュシチューについてのうわさも話半分に聞いていたし、個人的にはおいしそうだと思っていたので、ダブリンや北アイルランドのベルファーストで何度も食べて実際に検証してみた。
まずはダブリンで
いわゆるアイルランド料理を食べようと思っても、それらしいレストランは意外に見つからず、どうもアイリッシュパブに入るのが最もよさそうだという結論に至った。
これはアイリッシュシチューの場合ばかりではなくて、それ以外のサーモン料理とか伝統的なアイルランド料理を食べようと思うと、どうもパブがいちばんメニューが充実している感じがする。
まずダブリンに宿泊した時には、有名なテンプルバーでパブ巡りをしてみた。
特に昼間だと食事だけのランチ客も多く、ビールを頼まなくても特に嫌がられたりもしない。
むしろランチタイムにビールだけを飲んでいる人の方が少ないので、そこら辺は意外に入りやすかった。
そして初めて食べたアイリッシュシチューだが、結論から言うとまずいどころか、かなりおいしい。
通常のビーフシチューよりももう少しトマトベースに近い感じで、ミネストローネとビーフシチューの真ん中ぐらいの印象。
にんじんやじゃがいも、玉ねぎ、牛肉等の具もビーフシチューとあまり変わらず、かなり大きめに切ってあってごつごつとしている。
アイルランドの風土を反映したかのように武骨な印象だが、あたたかくて家庭的な味がする。
何しろ寒い国なので、これは冬に食べたらますます体に染み渡ることだろう。
私が行ったのは8月だったので、一年の中でも一番暑い時期だったが、それでも暑いというよりは涼しいという表現がぴったりくる気候。
まして冬に向かってどんどん寒さは厳しくなっていくので、こういった温かい料理はなおさら歓迎されるだろう。
テンプルバーでいくつかのパブを巡り、アイリッシュシチューやサーモン料理を食べたが、どれも外れはなかった。
他のヨーロッパ諸国と比べても食事がまずいということはないし、派手さはないものの素朴で、個人的には好感を持った。
ヨーロッパ内で食事がまずい国というと真っ先にルーマニアが浮かぶが、そういった国と比べて劣っている感じは一切しない。
ただしフィッシュ&チップスは料理としてはかなり粗いのは感じるし、好き嫌いが分かれるのも理解できる。
私自身もフィッシュ&チップスは一度食べたら、もう1週間は食べたくないし、まずいとは思わないが胃がもたれて重いとは毎回思う。
フィッシュ&チップスはイギリス名物とされることも多いが、実際にはアイルランドも同じ文化圏なので、ダブリンでも名物料理として数えられることが多い。
ダブリンの北部の戸建てが並ぶ住宅街で宿を取っていた時にはB&Bに泊まっていたのだが、その近くにあったアイリッシュシチューはまずいとは言わないものの、若干美味しくはなかった。
しかしながら店内を観察していると、どうやらそれは中国系の人が経営しているようで、いわゆる伝統的な料理を出しているわけではなく、味付けに関してもかなり独特なアレンジが加えられていた模様。
北アイルランドのアイリッシュシチュー
ダブリンから長距離バスに揺られてベルファーストにやってきた。こちらは北アイルランドといってもイングランド領になるが、この際なのでこちらも紹介しておこうと思う。
ベルファーストは落ち着いた街で、郊外は自然に満ちている。
タイタニック号が建造されたことでも有名な街。
ベルファーストも街の中心部にはいくつもパブが立ち並んでいて、ギネスビールとアイリッシュシチューを頼んだのだが、この組み合わせはまずかった。
両方とも汁ものだし、味の面でも何だか相乗効果が全く得られない。
そもそもギネスは味も濃く苦みもかなり強いので、料理に合わせてごくごく飲むというよりは、それ自体を単独で楽しむ飲み物なので、ほかのビールとは少々扱い方を変えたほうがいい模様。
せっかくアイルランドに来たので何度かギネスを頼んだが、最終的にたどり着いたのはそういった結論だった。
ちなみに、最近ではギネスの黒ビールよりも、もっと軽いビールの方がアイルランドの若者にも受けており、こういった苦みの強いビールが若い層から嫌われる傾向は、日本ばかりではなく本場アイルランドでも同様という話。
話をアイリッシュシチューに戻すと、こちらも料理そのものはとても美味しく、ダブリンでも食べていたので当初同じメニューを注文しすぎかとも思ったが、実際には飽きることもなくおいしく食べられた。
できることなら今度は冬の寒い時に食べてみたい。
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