
マレーシアには、水と空気がきれいで美食の町と呼ばれる街がある。
それはどこかというと、極楽洞やケリーズキャッスルで知られるイポーで、クアラルンプールよりも北部に位置する。
ちょうどペナンとクアラルンプールの中間地点のような場所であり、かつてスズの生産で栄えた街でもあり、今でもマレーシアの中で人口において第3位の町となっている。
それだけの人口を擁する街でありながら、イポーは移住先として知られていないだけではなく、一般的には観光地としても認知されておらず、私自身もこのイポーという町の噂をジョホールバルに住んでいる時に聞いたことは、一度たりともなかった。
初めてイポーの名を目にしたのはクアラルンプールの紀伊国屋書店で、地球の歩き方だったか、るるぶだったか、そういった旅行の情報誌を読んでいた時に、イポーという町があることで初めて知った。
どのみちペナンには行く予定だったし、飛行機で行くのか、あるいは鉄道やバスで行くのか、特に決めていなかったので、イポーに寄ってから行くことにした。
何よりもその時は、今後の移住先候補を探すことを重視していたので、イポーももしかすると住みやすいのではないかという淡い期待を持っていた。
当時考えていたのは、ジョホールバルがマレーシアにおいて人口第2位であって、それなりに和食レストラン等もあったので、第3位のイポーも知名度が低いだけで、意外に住みやすいのではないかということだった。
イポーの現地を訪れてみると
イポーへ行ってみると、ジョホールバルで散々目にしたような特に発展していない商店街のような町並みをはじめとした新鮮味のない風景ばかりで、レストランのバリエーションが少ない。美食の町と言われたのも、あくまでマレーシアのローカル料理が美味しいという意味であって、食の多様性が確保されているかと言えば、そんなことはない。
東京はもちろん、マニラやクアラルンプールのような大都市のように、各国の料理を食べることはできず、ほとんど洋食のレストランすらも見当たらない状況。
そんなところであっても、さすがにマクドナルドやケンタッキー、あるいはピザハットぐらいはあったが、普通のイタリアンやスペイン料理のレストランは、私が探した範囲では皆無。
マレーシア料理には過去に飽きてしまっていたので、食べる物がないという問題が起きた。
日本であれば、スーパーやコンビニで弁当でも買って食べればいいと思うかもしれない。
惣菜も充実しているし、確かに日本であればおにぎり一つ取っても、非常にクオリティが高い。
しかしながら、マレーシアのセブンイレブンに入ったところで、美味しい食べ物は置いてなく、いかにも化学調味料がたっぷりな味つけで、なおかつ美味しくはないので、一日に二度も三度も食べられるものではないし、正直一日に一度も食べたくない。
何しろ食事は毎日避けられないので、いつもどおりのルーティンを回すのが厳しくなってきた。
これはイポーばかりではなくて、アジアの地方都市であれば一般的に言えることで、田舎の方に行くとますますその傾向は強くなる。
ストレスなく食事ができる環境がなければ、そこでの生活を長続きさせることはできない。
こういったことがあるので、アジアの物価の安い地方で日本人が生活するのは、現実問題としてなかなか厳しいところがある。
これがヨーロッパ等であれば、洋食は食べ慣れているので、たとえ和食を食べられなくても、一年や二年であれば生活できると思うが、アジアにおいては、せいぜいもって半年ではないかと思う。
私のようにすでにアジア飯に飽きてしまっている場合は、一週間すらこういった場所に滞在するのは厳しいことを、改めて思い知らされた。