
2012年に香港上海銀行、いわゆるHSBCが日本から撤退することを発表し、一部の金融関係者や投資家が騒然とした。
前年の2011年12月にはプライベートバンキングの部署をクレディスイスに売却することを発表し、そのことも話題になっていたが、とうとうHSBCが日本から出て行くということで、それまでも細々と広尾や横浜などの限られた支店で営業していた状態から、ついに完全撤退ということになってしまった。
日本人の多くの人が持っている感覚として、私たちは世界の中で見ると相当なお金持ちで、日本で言う中流階級のサラリーマンであっても、海外、特にアジアにおいてはエリート層とみなされることが多いくらいの所得や資産を持っているという思い込みがある。
たしかに年収500万円程度とか資産が2000万円程度しかない日本人でも、一部の人はお金持ちとしてみなしてくれるし、たしかに貧困層から見れば憧れのライフスタイルかもしれない。
しかしながら、東南アジア各国においても所得水準が上がり、さらには物価の高騰や外国人の移民が増えた。
結果、その国の金融機関や富裕層向けのサービスから見れば、年収500万円や資産2000万円レベルなら、どうでもいい取るに足らない存在として対象外とみなされることも多くなっている。
香港の富裕層の多さ
香港は7人に1人、あるいは6人に一人が金融資産一億円以上を保有していると言われるほどの経済状態。圧倒的な経済格差があるという社会問題も指摘されてるとはいえ、中国本土からの富裕層も流れてくることもあり、はっきり言えば日本人の中間層を、魅力的な市場としては捉えていないところがある。
HSBCプレミアは一千万円以上の最低預金額となっていたが、はっきり言えばこの程度の金額であれば、香港から見るとどうでもいい預金者としてスルーされてしまったところで別に不思議なことではない。
事実、現在のHSBC香港の最低預金額は100万香港ドルとなっており、円安の影響もあって1500万円以上となっている。
つまり、2012年当時の日本の1000万円というHSBCジャパンよりもハードルが5割増しになった。
生活感覚としても、香港の龍景軒や露台餐廳で食事をしていると、以前よりも円換算で金額を把握した時に割高感がある。
これは単純に為替の影響なので単純比較することはできないが、もはや日本人の中間層が世界でお金持ちであるという幻想は捨て去った方がいいのかもしれない。
市場を選ぶHSBC
HSBCは日本から撤退するだけでなく、タイからの撤退も決めているように市場を選択し、より伸びるところに力を入れる戦略をとっている。例えばインドやインドネシアに対しては注力する方針を固めており、実際ジャカルタを訪れた時も度々HSBCの看板や支店を見かけることもあった。
日本の金融市場がガラパゴス化していて、未だに護送船団方式が取られているところもあり、外資系の銀行から評判が悪いことはシティバンクの例をとってもよく分かる。
HSBCが撤退したのも意外な話というわけではなく、時期の問題はあるにしても、いずれ日本から出て行くことは予想されていた。
日本国内の支店の数も結局大きく増やすことはなかったし、ある意味で言えば予定調和のところもあったが、それだけ日本人を取り巻く環境が厳しくなっていることは無視できない。
アベノミクスの影響で株価が上がっていると言っても、その分円安になっているし、不動産価格にも同じことが言える
むしろ日本円ベースのみで利益が出れば、その分だけ税金はがっぽり取られるし、外貨ベースでみた時には収支がとんとんであっても税金のコストだけマイナスということで、投資家にとっては弱り目に祟り目といったところ
そして中国の爆買いが示すように、為替が弱いということは相対的に買いの対象の国であって、もはや日本人が海外に出て市場を牛耳るような状況ではなくなってしまったことを、海外で生活していると強く感じる。